水彩画家として大正から昭和にかけて活躍した中西利雄の著書「水絵の技法」です。
この本自体は1962年(昭和37年)に出版された第5版で、初版は1955年(昭和30年)ですが、どうやら1943年(昭和18年)に出版された「水絵(技法と随想)」という本の改訂改装版のようです。
その事実に気がついたのは、医学博士で水彩画家の小山良修が寄稿している、あとがきの中に
中西君は戦争のはげしくなった昭和十七年にこの稿を起している。
制作のあいまあいまに例によって(彼の性質から)率直に、そして丹念に調べては文をつづっている。翌年一度、出版して愛好者に非常によろこばれた。戦時下とて、その本は多くの人々にはゆきわたらなかった。
と言う一文があったので、調べてみると前述の本があるという事が分かりました。また、中西利雄が1948年(昭和23年)に亡くなっている事も知り、この改訂版は著者の没後に再版される事になったのも分かりました。
内容としては、あとがきの一節にある通り、とても細かく丹念に道具や技法の説明がされていますが、その中で、水彩を描く上で要となる輸入物の紙が戦争の影響で手に入らなくなっている状況が書かれていたり、当時の日本には無かったイタリアのファブリアノ紙を紹介していたりしていて、世界中の優れた水彩紙が手に入る現代との違いを感じ、とても印象的でした。
また、著者の東京美術学校時代やヨーロッパ留学時の様子も、その当時の光景が音や臭いまで伝わってきそうなくらい細かく表現されていて、まるで自分がその場にいるような気分になり、読み物としても優れている一冊だと思います。
中西利雄
1900年(明治33年)~1948年(昭和23年)